■和美のBlue
□つちふまず


「指ならし。」 そう言ってナツさんは。 〜♪♪♪♪ 長い指を、 踊らせて。 単調なフレーズを。 「…………。」 あの、 ピアノって。 私良く知らないけど。 上手いか下手かって言ったら…。 「リクエスト募集。」 指を動かしながら。 ナツさんは口を開けていた私を見上げて。 「あ、いや、……。」 思い付きません(涙) だって。 だってさ…、 「んもーずるいナツさん。」 ピアノにもたれて、 口を膨らますと。 〜♪♪〜♪♪♪ 手を動かしたまま。 「ずるい?なんで。」 「ふーんだ。」 モテるに決まってるんだから。これ以上その要素は。 あまり外に出して欲しくないよ。 「すぐ怒る。」 ナツさんは笑うと。 〜♪♪〜♪♪♪ 曲調を変えて。 何だか随分雰囲気が…。 あ。 あははは。 「ふふ。そんな曲弾けるの?すごーい。」 ナツさんの指は。 アップテンポな。 “ネコバスのテーマ” だった。 「これは子ども用。」 指元を見ていたナツさんが。私をチラっと見て。 胸が、 悔しいけど。 例えるなら。 ズキューン(涙) ああもう…。 一つ呼吸を置いて。 〜♪〜♪ 少し切ないメロディ。 私は肘を付いて。 ナツさんを見る。 〜♪〜♪ 静かな曲調。 弾きながらも、 何かを考えてるみたいで。 「知ってる曲がいいか。」 だな、とナツさん。 「うん♪」 了解と。 ナツさんは微笑んだ後。 「あー。あー。」 「え。」 ナツさんは口を開けて。 発声…。 ゴホン、と。 一つ咳をした後。 「カズ。」 「はい?」 「好きだと思ったら、後でちゃんと言うように。」 いたずらをするような目で、私を見た。 ………。 これ以上、 好きになるなんて事……。 あった。 だってナツさん。 歌うんだもん。
〜♪…〜♪ ナツさんは目を瞑り。 Hey lady… 〜♪……♪ You lady… ♪…♪♪ Cursin’at your life… 響くピアノ。 You're a disconted mother and a regimented wife I've no doubt you dream about the things you'll never do… 高音はかすれるのか。 それが余計に。 色っぽくて。 But I wish someone… had of talked to me Like I wanna talk to you 伝えるように歌う。 uuh… been to Georgia and California And anywhere I could run… 「あ、これ…。」 知ってる、と私が言うと。 ナツさんは笑顔になって。 また歌う。 ネイティブな発音。 意味はわからないけど。 I've been to paradise… But I've never… been to me… 〜♪♪〜♪ Please lady… please lady… 〜♪〜♪ ナツさん。 あのね。 なんていうか。 〜♪〜♪♪ I can see so much of me Still living in your eyes… 私も歌えたらいいのに。 〜♪♪〜♪ Oh,I've been to… 歌いながらも、 たまにこちらを見て。 微笑んでくれる。 肘を付いてそんな様子を。 私も微笑む。 〜♪♪〜♪ 〜♪♪♪〜♪♪ 暗い店内。 響くピアノ。 時が止まれば、 なんてセリフは。 こういう時の為にあるんだと思う。
〜♪♪〜♪ 〜♪♪♪〜♪♪ I've been to paradise… 指が止まって。 ナツさんは。 私を見て。 一旦首を、 左右に振った後。 But I've never… been to me… 〜♪♪♪♪♪ 〜♪♪〜♪…♪ …♪…………。 曲が終わり。 静寂。 「ん?」 ナツさんの。 どう?という瞳。 んも…。 決まってるじゃない。 「好きです…。」 唇を尖らせて言うと。 「嬉しいですー。」 真似されちゃった。 「ぷっ。」 「……ふ。」 それからナツさんは。 膝の上に子犬を乗せた、 私を隣に座らせて。 ダイアナロスを弾いてくれた。 多分、 ピアノを弾きながらキスしてくれる恋人は。 この先も現れないと思う。 後日。 Charlene/I've never been to me この曲の意味を知って。 私は泣いた。 あなたの幸せ、 ここにあると信じたい。
時間は戻って。 韓流スターも、 舌を巻くような。 素敵なライブの後の、 帰り道。 命名。 「エリーにしよう。」 歩きながら。 胸に子犬を抱いた、 ナツさんは。 彼女を見ながら。 優しい目をしてそう言った。 「あ、名前?」 「うん。」 エリーかぁ。 うん。 「可愛い♪エリー。」 手を伸ばして。 背中に触れると。 すうすうと。 太く息をして。 たまに左右に頭を動かして。 澄んだ瞳で世界を見てる。 「それから。」 マンションは店の裏手だから、すぐに帰宅。 ナツさんは鍵を正面ドアに差し込んで。 「はい?」 ブーンとドアは開いた。 「今夜は先に寝かせない。」 口の端だけ持ち上げて。 エリーを抱き直した。 あ。 あいや。 あの、ですね。 わわわわわ。 先に歩いて行ってしまう、 ナツさんの背中を。 「ま、待って〜。」 慌てて追い掛けた。 エレベーター。 「………。」 いや。ね? いつかはこう…。 ちゃんと、ね? こうなる時も。 来るかなーなんて。 覚悟は…。 「すぴ。」 え? 見上げると。 「……寝てる。」 見るとエリーは。 ナツさんの肩にもたれるように。すやすやと。 「ふふっ。あは。」 誰よりも、 眠いのは。 エリーみたい。 エリーを起こさないように、そっと部屋に入り。 “ただいま…” 小さく呟いて。 ナツさんは電気を着けずに、リビングへと入った。 窓際のゲージ。 タオルケットの上に、 そっとエリーを寝かせた。 「フニ。」 と、一つ。 鳴きながらウンと体を伸ばした後、また体を丸めて。 エリーは寝息を立てる。 月明かりに、 照らされて。 天使の寝顔。 そのままに。 「食べちゃいたい位可愛い…。」 「…ふ。」 だね、とナツさんも。 聞こえるか聞こえないかの、声で。 「シャワー浴びておいで。」 私を見て、 そう言った。 「………はい。」 少し間を空けて、 私は答える。 立ち上がる私とは対照的に、ナツさんはフローリングの床に。 横になり、肘を付いて。 私がシャワーを浴びて、 「どうぞ。」 と、声をかけるまで。 エリーを見ていた。
「いつも目…閉じてるの。」 長いキスの後。 ナツさんの声を、 真上で感じて。 そっと目を開けた。 だって…。 「見えちゃうんだもん。」 「電気は消したよ。」 衣が擦れる音と。 デジタルの時計が。 チ、チ、と。 進む音。 「でも見えるんです。」 熱くなった顔を、 両手で抑えると。 「そのままで。」 いいよ、と。掛け布団の中に潜り込んで行く気配がした。 キスをしながら、 先に服を脱いだのは。 ナツさんで。 私は。 ナツさんの胸の膨らみや。 背中から腰にかけての、 ゆるい曲線。 今までは自分とはあまりにも違い過ぎる存在を。 初めて同じだと、 認識出来た。 あなたと私の唯一の。 共通点は。 女である事だと。 理解の後に来る感情は。 言葉にならない不安。 でも。 「………ん。…っ。」 体を徐々に這っていく、 何かに。 右足に絡むナツさんの細い太股に。 「ふっ……ああ。」 あらがえるはずもなく。 でも。 「……っ。な、ナツさん?」 言っておきたい。 「…何。」 「っ…。」 暖かい舌が。 おへその上を通る。 「……あの、」 「ん……?」 目を開けると、 私と、 掛け布団の間に。 ナツさんの小さな顔。 ゆっくりした動きで、 私の真上に。 移動する。 「…どうした。」 ずるい。 顔を手で挟まれたら、 「ナツさん…。」 目は瞑れない。 「ん。」 優しい目。 「こんな事言ったら…。」 引くかな。 引いちゃうかな。 でも。 「…たら?」 長い睫毛。 優しい瞳。 「初めて…なんです。」 私は目を閉じた。 ………。 何も聞こえない。 やっぱり…。 言わなきゃ、よかった、 恐る恐る目を開けると。 …………。 ナツ、さん。 嘘。 ………涙? 「今、…わかった。」 ……? ナツさんの頬に、 そっと触れると。 「失いたくない。」 強く抱き締められた、 その腕は。 私の顔よりも、 熱い気がした。
震える唇から。 “失いたくない” 涙混じりの。 初めて聞くその声は。 ああ。 「私……も。」 失いたくないよ。 体に回された腕と、 ナツさんの全部に。 私も腕と足を絡ませて。 熱が二乗になる。 もっと。 涙に濡れた、 愛しすぎる人の。 頬を自分に寄せて。 「………ああ。」 隙間がないように。 近付ける所まで…。 もっと。 ナツさん。 「優しくなんてしないで。」 思うままにして。 痛いくらいに繋いだ、 枕の上の。 あなたと私の手。 「……ああ。んっ!!」 離さないで。 繋いだままでいい。 「……壊れるよ。」 構わないよ。 「………いい。いいの。」 汗ばんだ体を、 反転させて。 「………カズ。」 下を見ると。 ナツさんの体。 汗ばんだ額。 もう。 ナツさんは両手を伸ばして。 少し強めに。 私の乳房を、 両手で掴む。 長い指で。 広い掌で。 胸が、胸でなくなる感覚。 「ふっ、あ、やっ…。」 いやいやをしても。 わかってる。 やめてくれないのは。 あなたに身を任せるから。 怖くないから。 あなたなら。 痛みが熱に変わる瞬間。 私も声を上げて泣いた。
「…………ん。」 明け方の。 薄い羽毛布団…。 うつ伏せに寝ていた、 頭を起こす。 ん……。 ふふ。 眠るナツさんの、 静かな静かな。 寝顔。 寝室をほんの少しだけ照らす、朝方のぼんやりとした光。 彫りの深い横顔に。 綺麗に陰影を。 前髪が伸びたね…。 そっと額の辺りに触れると。 「ん………。」 あ。 起き…、 体をこちらに向けて。 片腕を私に。 回して。 …てないか。良かった。 向かい合う。 ふふ。 綺麗な鼻筋…。 眉と目の間が、 ナツさんはすごく狭い。 だから余計に。 端正な顔を作ってる。 くすぐったいね。 あ。 アタタタ。 太股をこっそりさする。 内股の辺り。 突っ張るような。 筋肉痛。 “……力、抜いて?” “……うん。” そんなやり取りを思い出して。 顔が熱くなる。 セックスを知った夜。 朝は特別な痛みを抱いて。 それでもすごく。 幸せ。 ふーと息を着く音。 「………ん、何時?」 あ、起きちゃった。 パチパチと。 ナツさんは、 長い睫毛を揺らせて。 私に体を寄せる。 「……まだ早いよ。」 首の下に回された腕に乗る。 「うん………。」 まだ眠そうに、 ナツさんは私の額に。 深く息を吐いた。 私も目を閉じて。 まどろむ明け方…。 「……後でお散歩、行こう。」 頭上で。 低いナツさんの声。 「………うん。」 エリーもきっと早起きだから。 海で離そうね。 遠くで聞こえる。 早起きセミの声。 熱帯夜の後は。 幸せ過ぎる初夜の朝。
はいども〜(^O^) ん、是非HPにも来て下さいね♪ 賑わってますので、 ありがたい限りですよ。 ポスト取り付け後…。 未だ挨拶も交してない方ともやり取りをする事が出来、 嬉しかったつちふまず(^O^) 返信したら、 『ぎゃあ返ってきた!』 と驚いてくれた方も…。 いらっしゃいました(笑) つちふまずの…。 “友達100人計画” 順調に進行中♪♪♪ 昨日…。 寝ようと決めて横になったのにも関わらず。 あまり眠れなかったつちです。 こっそり何処かで…。 シエスタします(笑)
「ウハハハハハ!!」 ヤスさんの高らかな、 笑い声が響く。 花火大会当日。 この日は完全予約制。ほとんどのお客様は顔馴染みばかり。 スタッフのテンションも上がる。 夕暮れの、由比ヶ浜。 ザワザワと人で埋まり始める様子をテラスから見ていた。 うーん。 夏だなぁ♪なんて…。 しんみり? ううん違う。 わくわく♪ あ。 あれは…。 「冴子さーん!」 歩道を歩く、 真っ黒に日焼けした冴子さんと、車椅子のケイさん。 そして…。 「ウォン!!」 ジュニアも。 振り返り、ナツさんを見る。 今日のナツさんは。 年に一度の花火に合わせてか。 背中がパックリ空いた、 セクシーなデザインの、 黒のカットソー。 そしてオーナー特注の長いサロン。 私の視線を受けて、 ん?という表情。 “高木様です” 歩道を指差しながら、 口をパクパクさせると。 “ん、わかった。” と頷いて。 ヤスさんの元へ。 私はテラスを降りて。 「いらっしゃいませ♪」 頭を下げると。 「久しぶりだね。」 ケイさんが私の顔を見上げて、白い歯を見せてくれた。 「はい。ですね♪」 「おーう!らっしゃい!!」 バタバタと。 ヤスさんがテラスを、 駆け下りて。 太い腕にはエリーを抱いて。 「ウォンウォン!!」 ジュニアはくるくると。 興奮…。 「あ。可愛い〜!!」 冴子さんの嬉しそうな声。 「バーニーズだ。」 ケイさんも。 「おう!俺の三人目の娘だ!」 ウハハハと笑うヤスさん。 わわわわわ。 「娘?」 はて?と。 ケイさんは冴子さんは顔をみ合わせて。 「いや、ほら、行きましょ?」 始まっちゃいます、と。 二人を促すと。 「カズ、持ってろよ。」 すっかり丸々と。 成長中のエリーを渡されて。 重い(涙) 下に降ろすと。 「フンフン。」 「クンクン。」 ジュニアとは初対面。 どうやら仲良くなれそう♪ エリーの方が…。 きっと大きくなるんだろう(笑) 「あらよっと。」 「あ、すみません。」 190cm近いヤスさんは。 150cmちょっとのケイさんを。 軽々と片手で持ち上げて。 もう片方の手で車椅子を持って。 派手に入店♪
ヒュ───。 「あ。」 フワッと赤い、 大輪の花。 綺麗〜っ! ────ドン。 始まった〜。 ヒューヒューと。 パチパチと。 その時を待ち詫びた。 観客達。 “お待たせ致しました。ただいまより…” 浜の中心部に。 設置された。 大会本部からのアナウンス。 〜♪〜♪♪♪ その声を合図に。 ヤスさんが、 店内のサウンドを。 一杯一杯にして。 特別メニューを、 いっせいにお客様へ。 ヒュ───。 ───ドン。 特別な効果音に乗せて。 ホールの人間は、 フル回転で。 だから…。 見る暇なんてなくて(涙) でも料理を運ぶたびに。 夜空を見上げて、 大輪の花を楽しむ。 お客様の顔と言ったら…。 世の中の。 犯罪とか。 悲しい事が。 本当は起きなくてもいい事なんじゃないかなって。 その位いい顔をしてる。 ヒュ───。 ───ドン。 テラスの端を見ると。 冴子さんとケイさんが。 コロナを片手に。 顔を寄せ合って…。 何かを話してる。 ふふ。 ………あ。 「ナツさん。」 すれ違うナツさんの腕を取る。 「ん?」 どした?と。 相変わらず優しい瞳で。 顔には赤い光が反射して。 「エリー。すっかりなついてる。」 ほら、と冴子さんと。 ケイさんの。 足元辺りを指差すと。 伏せの状態で空を見上げるジュニアのお腹辺りに。 音がまだまだ怖いのか。 ぴったり身を寄せて。 「ん。本当だ。」 ナツさんも目を細める。 幸せな光景。 これ以上ないと言う位の…。 「カズ。」 え。 「はい?」 ボーっとしてた(涙) 「15分後、オーナールームに来て。」 腕を組んだナツさんは。 まるで。 いつか見た、 何かを企むような顔。 「え、あ……はい。」 何だろ。 「とりあえず料理、全部出そう。」 行くよ、と。 キッチンへ。 「あ、はい!」 私達のやり取りの。 背景には。 ヒュ───。 ───ドン。 「おおー!」 「綺麗〜!」 あーん(涙) 私も見だい〜!!!
ヒュー…… ────……ドン 15分後。 全てのお客様へ、 コース料理の配膳が済んで。 ─コンコン。 オーナールームをノック。 ガチャ、と。 重い扉を開ける。 「カズ。」 ドアが開いたと同時に。 ナツさんが振り向いた。 「お疲れ様です♪」 パタン、と後ろ手に。 ドアを閉めて。 ふふっ♪ 「んーっ!!」 パタパタと走り、 ナツさんの後ろに回って。 えーい!! 「お………っと。」 腰の辺りに抱きつく。 背中が開いたデザインだから。頬の辺りに。 ナツさんの体温を感じる。 ふふ。 ナツさんは。 「こらこら。」 背中側にある私の頭を。 ワシワシと撫でた。 体を預けたあの晩から。 私のナツさんに対しての、 想いや。 願望や。 欲求は。 オーナーとバイトの立場である事も忘れさせる程。 いけない事だとわかっていても、 このレストランバーの外壁では、抑えられるはずもなく。 とどまる事がなくて。 こうして二人っきりになると。 「チューしたいです。」 「今はダメ。」 「えー…。」 甘えん坊です♪ ごめんなさい皆さん(笑) 「おいで。」 え? ナツさんの体が、 スッと離れて。 部屋の端に向かって。 サロンを翻した。 「あ、…はい。」 なに? ナツさんは部屋の端の。 背の高いロッカーの陰になっていたから。 全然気付かなかった。 小さな扉。 一人通れる位の…。 「知ってる?このドア。」 ナツさんは嬉しそうに。 たくさん鍵の付いたキーホルダーから一つを出して。 「こんなとこに…。知らなかった。」 ガチャ、と。 鉄製の小さなドアを開ける。 あ。 あら? 見えた景色は。 「あれ!?」 外だった。 「上に上がろう。」 ナツさんはそう言って。 人差し指を立てた。 「上がれるの!?」 知らなかったよ! 「ん。」 背中を押されて、 鉄製の小さな踊場に。 上に続くハシゴがあった。 ヒュ────。 ────ドン。ドン。 花火の音が共鳴する。 わくわくしながら。 二人で昇った。
「わわわわわ。」 「気を付けて。」 屋上、というか。 屋根でした(涙) 周りを遮るものはなくて。 ヒュー………。 ──ドン。ドン。 「綺麗〜!!」 足場に注意しながら。 上を見上げると。 まだまだ鳴り止まない。 まだまだ枯れない。 夏の大輪花。 「ベスポジ。」 うん、とナツさんは頷いて。腕を組んで空を見上げた。 ふふ。 「一緒に見れるの、嬉しいです。」 こんな所が…あったなんてね。 ビーチの観客よりも。 テラスのお客様よりも、 ちょっと高い位置。 すごーい♪ 噛み締めていると、 後ろからフワっと。 ナツさんの両手。 頭の上に、 細い顎先が乗って。 わ。 わわわわわ。 うきゃーっ!! 「……ちゃんと聞いてて。」 「え?」 頭上で響く、 低くて甘い声。 ナツさんの腕に、 自分の手を添えて。 海に意識を向けると。 “………リョウタへ。健やかに育って下さい。父さんより” アナウンスの後。 ヒュ────。 ────ドン。 新緑を思わせる。 深い緑色の花火…。 「あ、メッセージ…。」 入れられるんだ。 へぇ〜びっくり。 いいなぁ、ふふ。 「そろそろ。」 またナツさんの声。 「はい?」 ナツさんの顎を擦るように頭を動かして見上げると。 目を細めたナツさんは。 口の端を持ち上げた。 ん? “来年も、再来年も、…これからもずっと夏をよろしくね。” 「これ。」 ナツさんの声と。 アナウンスが響く。 は。 は? “水玉パンツのあの子へ。……オーナーより。” へ? はぁ〜!? ドッと浜辺の観客が。 笑っているのがわかった。 水玉って。 「んもうナツさん!!」 「上がる。」 「え。」 ギュッと抱く手に力が籠った後。 海を見た。 ヒュ─────。 静かに昇って。 二尺玉。 華やかに散る。 海と。空と。 青。青。青…。 「和美のBlue。」 ────ドン。 耳元でそう言って。 口を開けていた私を見て。 「ナツをよろしくね。」 私の額に唇を当てながら、 微笑んだ。
それから── 近い未来。 の、夏。 「お待たせ致しました〜。」 私は相変わらず。 ここで働いています。 とは言っても…。 「シャワーはこちらです。」 “ブルーポイント”から。 “ビーチブルー”へ。 つまり…。 「パラソルですか?どうぞ!」 海の家を任される事になりました♪ なので…。 「あっつー。」 束ねた髪を結び直して。 汗を腕で拭う。 すっかり焼けた腕。 ログハウス風の海の家。 ナツさんと二人でデザインして、大工さんとも綿密に…。 おかげさまで。 ほぼ埋まった店内を見て。 私は微笑んだ。 「店長…ちょっとちょっと。」 「はい?」 バイトのこれまた真っ黒に焼けた高校生に呼ばれて。 店頭へ。 「だから荷物置かせてくれって頼んでるだけだろーが。」 真っ黒というより。 真っ黒に焦げた。 明らかに都心からだろうなと思わせる、若い男性三人組…。 もう…。 またか。 「お客様、どうされました?」 おずおずと。 彼らの前に。 すると一人がこちらを見て。 「メシ食うまで荷物だけ置かしてくれって事だよ。」 何度も言わせんなよ、と。 間延びした声で言われる。 そういう事(涙) 「お客様。失礼ですが…。基本的に席取りはご遠慮させて頂いております。」 だって盗難なんかあったら私は責任持てないもんね。 「あいてるじゃねーかよ。席。」 「後でメシ食うって言ってんべ?」 と。続け様に。 「しょ、少々…お待ち下さい。」 ちょっと離れて。 あわわわ(涙) 腰に付けていたトランシーバーを取り。 「……ナツさぁん!」 助けを求めると。 “…………何。” 直ぐに優しい声。 「ちょっとトラブル…。」 “………二分待って。” 待てないよー(涙) 「早くしろよ、ったくよー。」 「高い金取るくせによー。」 言いたい放題(怒) 「お客様…。」 もう黙ってらない。 言い返そう…、 と。 後ろから。 「何か不都合でも?」 スキンヘッドで。 ファイアーパターンの、 タトゥー。 「ヤスさぁん。」 遅いよー! 見るとクレーマーの三人は。 「ない…です。」 ぷるぷると。 頭を左右に振った。
「やっぱり今日はここにいてやろう!」 ウハハハハ!と。 ヤスさんの声が響く。 「んもー海の家なんて無理ですよう〜。」 泣き言を言うと。 「あっちも忙しいぜ。」 海の家と平行に。 道路を挟んだ向こう。 ブルーポイントが見える。 テラスを見ると。 たくさんのお客様の中。 こちらを見ている…。 「みたいですね…。」 目が合った。 笑顔で。 手を振ってる。 肩まで髪が伸びた、 ナツさんが見えた。 私も精一杯手を振る。 「もろこし焼いてろや!俺が熱い接客をしてやろう。」 ダハハハと。 ヤスさんは。 アロハから伸びた腕を。 モリっとさせた。 「は〜い。」 ログハウスの端に付けられた、即席のバーベキューコンロで。 「代わるよー。」 「あ、すみません。」 汗だくになって頑張っていた、バイトさんとチェンジ。 ぶわっと顔に。 「あつつつつ。」 煙が熱い〜(涙) コロコロと。 取れ立てのもろこしを、 転がして。 海を見る。 あ、そだ。 わりばし…。 なくなっちゃった、と。 裏へ向かおうとした時。 「すみませーん」 声がした。 「はーい。」 お客様、と…。 見ると私と同い年…くらいの。 仲の良さそうな。 女の子二人組。 一人は…、 「いい匂いだね。」 花柄の水着が良く似合う。 「せやね。」 あ。関西の人だ♪ その人は。 チェックの水着を着て。 二人とも可愛い〜♪ くるくると紙を巻きながら。 「はい、どうぞー。」 お金をもらって。 それを渡そうと…。 ………ん? 二人とも。 何故か。 ジッと私の顔…。 見て。 「どうもー。」 思い直したように、 二人はとうもろこしを持って。 浜辺へとまた歩く。 人違い、かな? ふふ…。 でも。 楽しそうな二人。 友達かな。 まさか…恋人、とか。 ふふ。 どっちでも、いいよね。 だって。 だってさ。 今は夏だから。 楽しければ、いいよね♪
好きになった理由は。 「ワン、ツー、スリー…」 まだわからないよ。 でも。 〜♪♪ 「恋はあの日で終わったの〜♪」 これから何回、あなたと。季節を迎えられるだろう。 〜♪♪♪ 「またいつもの一人ぼーっち〜♪」 …………♪♪。 「おう!何で止めるんだよ!ナツ!!」 「父さん…やっぱりこの曲やめない?」 「あ?なんでだ?」 「だって…。」 「いいーんだよ!ほら、行くぞ!!」 それでもやっぱり。 こんな光景は。 〜♪♪〜♪♪♪ 「せぷてんばぁ〜♪夏はもう後ろ姿〜♪」 こんな光景は。 「ありがちな恋の唄でーすぅ〜♪」 幸せなんだと思う。 多分。 こういうのを。 幸せって言うと思う。 〜♪♪ 「ナツ!歌え!!」 「無理だって。」 「横須賀線の〜最終で〜♪♪」 あなたはどうだろう? あなたのお店。 あなたの家族。 あなたの犬。 ……そして私。 〜♪♪ 「鎌倉の海にきーました〜♪」 「ふふっ。」 「おうカズも歌え!」 「ええっ!」 「せぷてんばぁ〜♪」 ピアノを弾きながら。 あなたは、 苦笑いをしてる。 あなたの家族は笑顔で。 ウクレレを弾いてる。 そして私は。 いつまでも。 「明日は会社を〜やすみまーす〜♪イエ!!」 あなたの側にいたいと思う。 夏が過ぎても。 秋になっても。 いつまでも。 「ウハハハハ!!」 ……Fin♪
完 面白かったらクリックしてね♪ Back PC版|携帯版